窓の外はまもなく日が昇り、小枝に止まったすずめがさえずりを届ける。

閉じられたカーテンの隙間から明るい光が差し込む。


「ブン太、起きて。今日朝早くから仕事あるって言ってたじゃない。早く起きてよ」

「ん…あ、…」

「昨日、切原から電話あったよ。また連絡するって」

「うん…」


ブン太は目をこすりながら伸びをし、ベットから出た。

ジーンズに上半身は裸という格好で、冷蔵庫に入っていた水を一口飲んだ。

べっとの脇にきちんと畳んで置いてあった白いシャツを着て、携帯をポケットに入れた。


「じゃあ、行って来る」

「ん、頑張って」


べっとの中からこっちを見つめるにウインクすると、ブン太は出て行った。


ブン太とは、今年で22歳だ。

ブン太は某テレビ局でADみならいとして働き、は夕方からバーで働いていた。

そしては、時々こうしてブン太の部屋に泊まりに来ていた。


はブン太と一緒に寝ていたベットから立ち上がると、

クローゼットから丈の長めのワイシャツを取り出した。

それを下着の上から羽織り、ボタンを上から順にとめた。

昨日床に放り出したシャツやらジーンズやらを拾うと、洗濯機に突っ込み、

そのままボタンを押してスタートさせた。

はCDプレーヤーの再生ボタンを押し、軽快なリズムの音楽が薄暗い部屋に流れ始めた。

机の上には数冊の雑誌が散らばっている。

がふと、開いてあるページに目をつけると、そこには“21歳の天才現る!!”という見出しと共に、

切原赤也のテニスをしている写真が載せられていた。


(あぁなるほど。昨日ブン太があんなに激しかったのは、こーゆーことだったのね)


は開いてあった雑誌を閉じ、他の雑誌とまとめて部屋の隅に置いた。


(自分はテニスやめちゃったけど、切原は続けてて、

 しかもこんなに大きな大会で優勝したのが悔しいんだ)


は小さなため息をひとつついた。

出来上がった洗濯物をベランダに干し、CDプレーヤの電源を切ると、

はクローゼットから出してきたジーンズを穿き、ブン太の部屋を出た。















ブーン…ブーン…


ブン太のポケットに入ってる携帯が振動した。


「もしもし」

『あっ、ブン太先輩ッスか?切原ッス!』

「…何だよ?」

『またまたぁ〜、見てくれたんでしょ俺の記事!』

「見たけど」

『おめでとうのひとつでも言ってくださいよ〜!」

「キリハラクンオメデトウ」

『あっ、ブン太先輩、もしかして悔しいんスか?俺がこんなに目立っちゃって』

「別に悔しくねぇよ…ってか、そんだけだったら切るぜ?俺仕事中だし」

『まっ、待ってくださいよ!今度の日曜日、中学んときのテニス部レギュラーだけで
 
 集まることになったんスけど、ブン太先輩も来れるかなぁって…』

「今度の日曜日…」

『何か用があるんスか?』

「…別にねぇけど」

『じゃあ決まりッスね!日曜日に6時から○○焼肉店で!』

「ああ、じゃあな」


ブン太は携帯での通話を終えるとため息をついた。


(俺は…いつから赤也と話すのがこんなにめんどくさくなっちまったんだろうな…)

















そして日曜日。

ブン太は重い足取りで焼肉店に向かった。

仕事帰りであるため、ワイシャツにジーンズという動きやすい格好だ。

焼肉店に入ると、肉の焦げる匂いやアルコール飲料の匂いが鼻についた。

ブン太は店の奥に行き、赤也たちが集まっている席を見つける。


そこにいたのは、赤也、柳生、仁王、柳、ジャッカル、そして


!?何でお前がここにいんだよ!?」


チューハイを飲んでいたは、当たり前、とでも言うようにブン太を見た。


「真田は急に出張が入ってしまってな…代わりにマネージャーだったに来てもらったんだ」

「……………」


(余計なこと、してくれる…)



ブン太は、中学のときテニス部のマネージャーだったと付き合っていることをみんなに言っていない。

そしてこれからもみんなに言うつもりはないのだ。

そこまでしてみんなに報告する事でもないし、報告したらしたで、からかわれるのが落ちだ。



ブン太は柳生に席を詰めてもらって、一番通路に近いところに腰掛けた。

肉がじゅうじゅうと音を立てて焼かれている。


「すいませーん、ビールひとつ!あとカルビと牛タンも!」


ブン太は大きな声で片手を挙げながら店員に呼びかけた。

しばらくすると、ブン太の前にはたくさんの肉が並んだ。

並べられた肉を、一枚一枚鉄板の上に乗せて焼いていく。

割り箸で肉をつまみながら、赤也が言った。


「こーやって、中学時代のときの仲間が集まるなんて久々ッスよねぇ」

「ジャッカルは仕事見つかったのか?」

「おう、今は大工のみならいやってんだ。
  
 それより、赤也はついにプロかよ!中学のときから凄かったもんなぁ!」

「へへへ、サインは今のうちッスよ!」

「調子に乗んなって!…柳は検事、丸井はAD、柳生は弁護士だっけか?
 
 そういや、仁王はどんな仕事についたんだよ?」

「俺は…ホストやっとる」

「「「ホッ、ホストぉ!?」」」

「…まぁ仁王に一番似合いそうな職業ではあるがな…」

くんはなにをやっているんですか?」

「…バーテンダーやってる」

「マジッスか!?俺今度行っちゃおっかなぁ〜♪

 それに先輩、前にも増して綺麗になったッスよねぇ!彼氏とかいるんスか?」

「…いるも何も、あたしの彼氏はブ「は彼氏いないんだよな!」

「…ブン太?」


咄嗟に嘘をついてしまったブン太を、が不思議そうな顔をして見た。

そして、悟った。


(ブン太、あたしと付き合ってることみんなにバラしたくないのかな…

 何か都合の悪いことでもあるのかしら…)


は赤也に向かって笑顔で言った。今は一応フリーだよ、と。

赤也はにも負けないようなスマイルを浮かべた。


「じゃあ本気で狙っちゃいますね」


(…しまった。からかわれたくないとか考えて、と付き合ってること隠すんじゃなかった…!

 がフリーだってわかったら、赤也が狙うってことぐらいわかってたのに!)


ブン太は心の中で頭を抱えた。

赤也はの隣に座っていたジャッカルに席を替わってもらい、の隣に腰掛けた。

ちゃっかり反対側の隣には仁王が座っており、にどんどんアルコールを飲ませる。

はアルコールのせいで顔が赤くなり、ぐったりしていた。


(仁王の奴もかよ…!酒に溺れさせてそのままお持ち帰りするつもりだな…!)


ブン太はのことが気になって肉に手がつかない。


「うっ…気持ち悪…」


はアルコールの飲みすぎか、口を手で覆いながらうずくまった。


「ちょっ、先輩もう少し我慢してください!」


赤也は慌てながら、の背中を押して化粧室まで誘導した。


「仁王…お前にわざと酒飲ませたろ。アイツが酒弱いこと知ってて」

「ククッ、知らんかった…って、酒弱かったんや?」


仁王は不敵な笑みを浮かべ、ブン太はチッと舌打ちをして仁王を睨んだ。






一方化粧室では…


先輩ー、大丈夫ッスか?」


赤也は女子用化粧室(ここでいう化粧室とはトイレのこと)に入るわけにもいかず、外からに呼びかけていた。

はその呼びかけに化粧室の中から答えた。


「うん、もう大丈夫。ありがとね、切原」


いったん顔を洗い、鏡に向かって化粧をしなおす

は紅い口紅を塗りながら考えていた。


(ブン太はどうしてあんなに必死にあたしを付き合ってることを隠したんだろう…?何か都合の悪いことでもあるのかな…

 例えばブン太にはみんな公認の彼女がいて、あたしは二股かけられてる、とか…)


(ありうる…)


考えれば考えるほどネガティブになっていってしまう。

頭の中はブン太と他の彼女のことでいっぱいだ。

もう一度髪を梳き直し、は化粧室を出た。外では赤也がまだ待っていてくれたらしい。


「ホントに大丈夫ッスか?もう帰った方がいいんじゃないッスか?」

「大丈夫だって。ほら、もうこの通り元気だし!」


は赤也にピースをしながら笑った。


(くぅっ…先輩かわいい…!もう我慢できねぇっ…!)


赤也はいきなりの腕を掴み女子用化粧室に連れ込んだ。

ひとつの個室に入り、自分はドア側に立ちが出られないようにすると、中から鍵をかける。


「っ、赤也!」


はすべてを悟ったかのように、赤也の腕を掴み外に出ようとする。

赤也は顔を赤らめて視線をそらしながら、もう我慢できないんスよ、と言った。


「やめて、赤也」


は赤也を睨みながら静かに言った。


「あたしはね、ブン太と付き合ってるの!…だから、赤也とは付き合えない」

「…ブン太先輩…」


はポケットから携帯を出し、ブン太に助けを求めようと電話をかけようとした。

赤也がから携帯を取り上げようとすると、携帯が床に音を立てて落ちた。

赤也はドアと床の隙間から携帯を個室の外に蹴りだした。


すると、個室の外で足音がし、化粧室の中に誰かが入ってきた。

はそれに気づくと、助けて、と叫んだ。


!」


入ってきた人はたちが入っている個室のドアをドンドンと叩いた。

赤也は舌打ちをして個室の鍵を開けると、は赤也から解放された。

個室の外にいたのは蹴りだされたの携帯を持った仁王だった。


「仁王!」


は仁王のところへ駆け出した。

何故かはわからなかった。仁王が何故女子トイレに入ってきたのかも。

だが、今は助けてくれた仁王のところへすがるしかなかったのだ。


「赤也…お前…」

「早いモン勝ちッスよ、仁王先輩」


赤也は余裕の笑みを浮かべた。


「だからね、あたしはブン太と付き合ってるんだって!」

「…丸井と?」


仁王は少し驚いたようだった。

仁王はの携帯を片手で上に投げながら言った。


「丸井、さっきはフリーって言ったやん。何で?」

「…わかんない」

「あんな奴、やめといたほうがええ」

「…仁王に、そんなこと言われたくない」


は仁王の持っていた携帯を乱暴に取ると、化粧室から出て行った。


(…どうしたの、あたし。こんなに不安になっちゃって…馬鹿みたい)















翌日、はバイト帰りにブン太のマンションを訪れた。

鍵がかかっていたため合鍵で部屋の中に入ると、中にブン太はいなかった。

部屋はカーテンが閉まっており薄暗く、服や菓子の食べかけのゴミなどが床に散乱していた。

は不思議に思い、その場でブン太の携帯に電話をかけた。


「もしもし、ブン太?あたしだけど…」

『あ、?悪りぃ、今忙しいんだ!またあとからかけ直す!』


ブン太はとても慌てているようで、電話の奥からは『丸井くん、早く!』という若い女の人の声が聞こえてきた。

そこで電話は切れた。


だが、しばらく経っても、何日経っても電話はかかってこなかった。

こちらから連絡しても繋がらず、ブン太は常に家にいなかった。

は毎日ブン太の家に行き、散らかっているものを片付け、夕飯を作り、帰った。


“丸井はやめといたほうがええ”


そんな仁王の言葉が何度もの頭をよぎった。

はブン太が離れてしまう夢を毎日見た。悪夢だった。


もうそんな状態が、1ヶ月ほど続いた。


は疲れ、いつしかブン太の家には行かなくなっていた。

赤也にメールを送り、心も赤也の方に傾きかけていた。

赤也に甘えてしまう事もしばしばだった。






そんなある日。

のもとへ、ブン太から一本の連絡が入った。


「もしもし…」

『…俺。丸井だけど』

「ブ…ブン太…?」

『今から、会えない?』

「…うん」


会話は短かった。

久々に聞いたブン太の声は、懐かしくて。

やっと、終わる。ブン太との恋が。

忘れかけていた、色あせていたブン太が、の中によみがえった。

自分はブン太のことがこんなにも好きだったんだ。

実感した。




はブン太のマンションに行った。

いつもなら合鍵で部屋に入るはずなのだが、何か後ろめたい気持ちがいっぱいで、合鍵を使う気にはなれなかった。

オートロックを通り、ブン太の部屋の前で止まった。

静かにドアを叩くと、懐かしい赤い髪のブン太がひょっこり顔を出した。


「入って」


はこくんとうなずくと、部屋の中に入った。

部屋は久々にカーテンが開いており明るく、片付けられていて綺麗だった。

いつもならベットに腰掛けるのだが、は床に正座をした。

薄々感づいてはいた。分かれ話しが切り出されることを。

ついにこのときが来たんだ。


…いままで連絡とれずに、ごめんな…」

「いいよ、もう」

「それと、毎日部屋片付けて、飯作って置いといてくれて、ありがと…」

「うん」

「そんでな…俺、考えたんだけど…」


「俺ら…」











「結婚しよう」











「…え…?」

「俺さ、ここ一ヶ月ディレクターに頼んで住み込みで働かせてもらってたんだ。

 結婚式の費用とか、生活費とか、色々かかるし。

 だから家には2日に1回ぐらいしか帰れなかったし、連絡とる暇もなかった…ホントごめんな…」

「…だったらその前に言ってくれればよかったのに…あたし、てっきり別れ話かと…っ」


「うわっ、何で泣くんだよ!?」

「だって…嬉しくて…」

「…それはOKと取っていいんだよな?」

「うん…」

「これからも、シクヨロ!」

「うん!」












こうして、ブン太とは結婚した。


テニス部のみんな、特に赤也には、結婚したということを伝えるために結婚式の招待状を送ったという。

そして貧相ではあったが、親や友達をたくさん呼んで、結婚式を開いた。












ふたり、永遠にお幸せに。




















END.....















+−+−+−+−あとがき+−+−+−+−

ブン太、誕生日オメデトウ!
今回は初めて未来夢に挑戦してみました。
内容よりも文の構成などを重視して書きましたので、内容はありがちです…;

この夢は、little angelの阿田宮としての最後の夢になると思います。
もしもまた、“僕の前に天使が舞い降りた”や“俺様ゲーム”などの作品を見かける事があったら、
「あ、阿田宮またHP開いたんだ」と思い出してくだされば嬉しいです。

今まで、本当にありがとうございました。






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